石の声を聞く ― 穴太衆積みを学び、熊本城の石垣を見る
7月、北海道で穴太衆積みの講習会に参加しました。
会場は札幌市。TRACE合同会社が2008年から続けている講習会で、穴太積み十五代目石匠・粟田純徳氏から、穴太衆に伝わる石積みの技術を直接学ぶことができます。実際に石を動かし、加工し、据え付け、積み上げるところまで、実習を通して教えていただきます。
今回取り組んだのは、野面積みです。
自然石を大きく加工せず、それぞれの石の形や性質を見ながら積んでいきます。
私自身、これまで庭づくりの中で景石や石組を扱ってきました。一方で、城壁として成立する石垣については、まだ十分な経験がありません。
今回は、これまでの経験だけで分かったつもりにならず、石積みの技術を受け継いできた石匠から、実際に石を触りながら学ぶ機会として参加しました。
石を見て、積み方を考える

今回の講習では、昨年までに積まれた石積みを完成させることを目標に、粟田先生から直接ご指導いただきました。
目の前には、大きさも形も異なる石が並んでいます。
野面積みでは、同じ形の石を揃えて積むことはしません。
隣の石との関係、その上に来る石、その先まで考えながら、一石ずつ積んでいきます。
考え方としては分かっていたことでも、実際に自分で積んでみると、一つの石を据えるたびに判断が必要になります。
石の声を聞く

自然石は、こちらの都合に合わせてくれません。
石垣を積みながら、そのときの石垣の状態を見て、次に使う石を選びます。
大きさや形、向き、周囲の石との関係を見ながら、その石がどこにハマるのかを考えます。
穴太衆の技術について、「石の声を聞く」という言葉を聞いたこともあります。
しかし、粟田先生によると、「石はしゃべらないし、そんなことを言っているとアホと思われる」とのことでした。
石を見れば、どこにハマるのかが分かる。
私にはまだ、そこまでの判断はできません。
ただ、実際に石を触っていると、「石を見る」ということの意味が、少し変わってきます。
大きな石を据える

大きな石は、ワイヤーで吊って動かします。
吊り上げた石を動かしながら、向きを変え、位置を調整していきます。
周囲の石との関係を見ながら、どこで受けるのか、どこまで控えを取れるのかを探っていきます。
実際に石を動かしてみると、少し向きを変えるだけでも、納まりが変わります。
石を割る

野面積みは、基本的には石の自然な形を生かして積み上げていきます。
一方で、今回の研修用の石は、思うような形のものも少なく、加工が必要な場面も多くありました。
そのため、ノミを当て、セットウで叩きます。
石目を見ながら、どこを叩くかを考える。
一度で決めず、少しずつ落としていく。
そして、必要以上には加工しない。
合端が安定しないところなど、必要な部分だけに手を入れて、できるだけ石の形を残します。
今回使ったのは北海道の石で、かなり硬い石でした。
研修の場にはベテランの石屋さんもいて、実際に石を割りながら、どこを見て、どこを叩くのかを教えていただきました。
私自身、石の加工については、まだまだ練磨が必要です。
一番、二番

石を積むとき、表から見える部分だけを合わせればよいわけではありません。
今回の講習では、「一番」「二番」という考え方についても教えていただきました。
正面から見えるところだけで合わせるのではなく、その奥で築石同士がどう噛み合うのかを見る。
実際に石を動かしてみると、ほんの少し向きを変えるだけで、奥での納まりが変わります。
石の形を見ながら、どこで受け、どこまで控えを取るのかを考えていきます。
裏込め

石垣は、表面の築石だけで成立しているわけではありません。
その背後には裏込めが入り、築石と合わせて石垣全体の構造をつくります。
これは石垣の基本として知っていたことですが、実際に自分で石を積み、その後ろに裏込めをつくってみると、表から見える石の面だけでは捉えきれない構造があることを改めて実感します。
表面の石と、その後ろの構造を同時に考えながら積んでいく。
積み上がっていく石垣

一石ずつ石を選び、必要なところを加工し、据え付けていきます。
大きさも形も違う石を組み合わせ、縦にも横にも目地が通らないように積んでいく。
最初はばらばらに見えていた石が、少しずつ一つの石垣になっていきます。
石垣の面を先につくるのではなく、一つひとつの石を納めていった結果として、面ができていく。
実際に作業をしてみて、そのことがよく分かりました。

研修を終えて

最後に、完成した石積みを前に参加者で記念撮影をしました。
石を選び、動かし、加工し、据え付ける。
知識として知っていることでも、自分でやってみると、一つひとつの判断の難しさが分かります。
特に、石の形を見て次の石を選び、その先まで考えながら積んでいくことは、まだ自分の中で十分に身についていません。
今回は、穴太積み十五代目石匠から直接ご指導いただきながら、実際の石積みを経験することができました。
まだまだ練磨が必要ですが、自分で石を扱ったことで、これまで知識として捉えていたことを、より具体的に理解することができました。
熊本城の石垣を見る

北海道での講習の後、熊本を訪れました。
2026年7月14日・15日に開催された第2回グローバル・ネイチャーポジティブ・サミットへの参加が目的です。
滞在中、熊本城にも足を運びました。
熊本城の石垣は、2016年の熊本地震で大きな被害を受けています。崩落した箇所では、普段は見ることのできない石垣の内部も露出しています。
以前から熊本城の石垣には興味がありました。
今回は、石積みの研修を終えた直後だったこともあり、一つひとつの石を改めて見て回りました。
一石ずつ見る

まず気になったのは、それぞれの石の形です。
大きさも違えば、形も違う。
その石が、隣の石や下の石とどこで接しているのか。
どちらを下にしているのか。
どこまで控えを取っているのか。
普段から知っていることでも、実際に自分で石を動かした後に見ると、石の納まりが具体的に見えてきます。
崩れた石垣を見る

崩落した箇所では、築石の奥にある構造が露出しています。
普段は見ることのできない裏込めや地盤まで見えるため、石垣が表面の石だけで成立しているものではないことが、そのまま現れています。

完成した石垣を正面から見ると、どうしても表面に目がいきます。
崩れた場所では、その奥まで含めて石垣を見ることができます。
北海道で実際に裏込めをつくった直後だったこともあり、その断面が特に気になりました。
野面積みを見る
熊本城には、野面積み、打込ハギ、切込ハギなど、異なる石積みの技法が残されています。
その中でも、今回特に気になったのは野面積みです。

自然石の形を残したまま、一石ずつ積まれています。
この向きにした理由は何か。
どこで隣の石と噛み合わせたのか。
どこまで控えを取ったのか。
北海道で実際に石を積んだばかりだったからこそ、そうしたことを考えながら見ていました。
石垣全体を見る

近くで一石ずつ見てから少し離れると、今度は石垣全体の勾配が見えてきます。
一つひとつの石の形と、その積み重ねによってできた大きな面。
近くで見れば細かな納まりがあり、離れて見れば一つの大きな構造としてまとまっている。
一石ごとの判断と、石垣全体の形は別々のものではありません。
石を積んだ後で見る
石垣そのものは、研修を受ける前から見てきました。
裏込めも、控えも、石垣の勾配も、基本的なことは知っています。
今回変わったのは、知識が増えたことではありません。
実際に石を選び、吊り、動かし、割り、据えたことで、それまで知識として捉えていたことが、目の前の石垣の中で具体的に見えてくるようになりました。
さらに、石垣だけでなく、その周囲にも目が向きます。

石垣は地盤の上に築かれ、雨を受け、時間とともに表面が変化する。石の隙間には植物が入り、崩れた場所には土が現れ、そこにはまた新しい植生が生まれます。



