SBTiとは? ― 科学に基づく気候目標と、私たちの暮らす場所
「SBTi」という言葉を、企業の脱炭素や温室効果ガス削減の文脈で目にする機会が増えました。
SBTiは、Science Based Targets initiativeの略で、企業や金融機関が、気候科学に整合した温室効果ガス削減目標を設定するための枠組みを提供しています。SBTi自身は、企業が「どの程度、どのくらいの速さで」排出量を削減する必要があるのかを、科学に基づいて示すことを役割としています。
SBTi|About us
単に「2030年までに30%削減する」といった目標を企業が自由に決めるのではありません。
現在の排出量や事業活動を整理し、世界全体で気温上昇を抑えるための排出削減経路と照らし合わせながら、自社がどこまで、いつまでに削減する必要があるのかを考えます。
「科学に基づく」とはどういうことか
SBTiの特徴は、目標の数字そのものよりも、その数字がどこから出てきたのかが明確であることにあります。
たとえば、企業が「2030年までに温室効果ガスを50%削減する」と掲げたとしても、その数字だけでは、その目標が気候変動対策として十分なのかは分かりません。
SBTiでは、気候科学に整合した方法を用いて、企業ごとの排出削減目標を設定します。
そのため、まず必要になるのが、現在どれだけ温室効果ガスを排出しているのかを把握することです。SBTiでは、企業の温室効果ガス排出量についてScope 1、Scope 2、Scope 3という区分で整理します。
Scope 1は、自社が直接排出する温室効果ガスです。たとえば、自社施設で燃料を燃焼する場合などが該当します。
Scope 2は、購入した電力や熱、蒸気などの使用に伴う間接的な排出です。
そしてScope 3は、それ以外のバリューチェーンに関係する排出を指します。原材料の調達、製品の輸送、製品の使用など、企業の外側にある活動も含まれます。
つまり、SBTiに取り組むということは、企業の敷地内だけを見て排出量を減らすことではありません。
事業を成り立たせている資材、エネルギー、建物、製品、サービスまで含めて、どこで温室効果ガスが発生しているのかを捉える必要があります。
近い将来の目標と、ネット・ゼロ
SBTiでは、短期的な排出削減目標と、ネット・ゼロに向けた長期的な目標を区別して考えます。
Near-Term Target(短期目標)は、提出時点から5~10年程度の期間で、温室効果ガスをどこまで削減するのかを定めるものです。ネット・ゼロ目標を設定する企業にとっても、この短期目標が重要な基礎になります。
一方、ネット・ゼロに向けた長期目標では、2050年まで、あるいはそれより早い時期に向けて、大幅な排出削減を進めていくことが求められます。残る排出についても、単に別の場所で削減したことにするのではなく、ネット・ゼロの考え方に沿って扱う必要があります。
ここで重要なのは、まず排出そのものを減らしていくことです。
目標を設定することが目的なのではなく、その目標に向かって、実際の事業や設備、建物、調達、運用を変えていくことがSBTiの本来の目的です。
SBTiは、いま変わっている
SBTiも固定された制度ではありません。
2026年6月には、企業向けの新しい Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 が公開されました。SBTiは、これまでの目標設定に加えて、実際の削減行動や実装をより重視する方向へと進んでいます。
現在は移行期間にあたり、2026年についてはCorporate Net-Zero Standard V1.3.1が引き続き適用されます。2027年第1四半期からはV1.3.1とV2.0のいずれかを選択でき、2028年2月1日以降は、新たに提出する目標はV2.0に適合することが求められます。
つまり、SBTiは「目標を掲げるための制度」から、目標を実際の脱炭素につなげていくための枠組みへ、さらに進化していると見ることができます。
建物も、SBTiの対象になる
SBTiには、業種や事業特性に応じた基準も用意されています。
その一つが、建物を所有・開発・金融などの形で扱う企業や金融機関を対象とした Buildings Criteria です。2026年7月にはV1.2が公開され、排出量インベントリの対象範囲や、建物のupfront embodied emissions(建設時の初期段階に発生する排出)の境界について、要件が明確化されました。
ここは、建物を考えるうえで非常に重要なところです。
建物のCO₂排出というと、使っている電気やガスなど、建物を運用している間のエネルギーをまず思い浮かべます。
しかしSBTiのBuildings Criteriaでは、それだけではありません。
建物をつくる段階で発生するupfront embodied emissionsについても扱われます。
建物をつくるということは、建物そのものをつくるだけではありません。
どのような材料を使うのか。どこから材料を運んでくるのか。どのような設備を入れるのか。そして、その建物がどのような場所に建ち、どのように使われ、どのように維持されていくのか。
そうした一つひとつの選択が、温室効果ガスの排出とつながっています。
数字の先に「場所」がある
SBTiの話をしていると、どうしても排出量、CO₂e、削減率といった数字が中心になります。
しかし、その数字はどこかに実際の場所があります。
電力を使う建物があり、建物をつくる敷地があります。資材を製造する工場があり、それを運ぶ交通があります。雨が降れば水が流れ、土地には土壌があり、植物が育ち、長い時間の中でその場所の環境が変わっていきます。
排出量を数字として整理することは重要ですが、その数字を実際の場所に戻してみると、何を変えることができるのかが見えてくることがあります。
たとえば、建物周辺の緑地について考える場合も、単純に「緑を増やす」だけではありません。
既存樹木を残せるのか。土壌をどのように維持するのか。雨水をどこに浸透させるのか。植栽をどのように管理していくのか。舗装や構造物にどのような材料を使うのか。
それぞれの判断は、気候だけでなく、その土地の水や土、植生、周辺環境とも関係しています。
SBTiとTNFD
気候変動について考えるSBTiと、自然との関係について考えるTNFDは、扱う対象は異なりますが、企業活動をその周辺の環境との関係の中で捉えるという点では、重なる部分があります。
TNFDについては、以前の記事で詳しく整理しています。
また、自然との関係をサプライチェーンや土地とのつながりから考えた記事もあります。
「自然には、敷地境界がない ― TNFDから考える、サプライチェーンと『場所』のつながり」
そして、TNFDとSITESを通して、実際の場所について考えた記事も書いています。
SBTiを、実際の場所で考える
SBTiそのものは、個人住宅や一つの庭を評価するための認証制度ではありません。
対象となるのは、企業や金融機関などの組織です。
それでも、SBTiを理解していくと、企業の気候変動対策が、実際にはさまざまな「場所」の選択とつながっていることが分かります。
建物をつくることも、その周囲に緑地をつくることも、土地をどう使うかを決めることも、事業活動の一部です。
私は、庭やランドスケープを設計するときも、単に植栽の種類や見た目だけを考えるのではなく、その場所にある土、水、植物、既存の環境、そしてその後の管理まで含めて考えるようにしています。
これはSBTiの要求事項という意味ではありません。
ただ、気候変動や自然環境について考えていくと、最終的には「どこで、何が起きているのか」というところに戻ってきます。
数字として整理された環境負荷を、実際の場所でどう扱うのか。
そこには、建物の設計だけではなく、敷地やランドスケープのあり方も関係しています。
SBTiは、企業の気候目標を科学に基づいて設定するための枠組みです。
そして、その目標を実際の場所で実現しようとすると、エネルギーや建物だけではなく、土地や水、材料、植栽、そして長期的な管理まで含めて考える必要が出てきます。
私自身は、そこにランドスケープの仕事が関わる余地があると考えています。
参考・公式情報
SBTi|How to set science-based targets



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