SBTi FLAGとは? 森林・土地・農業から考える、気候変動と自然
気候変動対策というと、再生可能エネルギーへの切り替えや省エネルギー、建物の高性能化などを思い浮かべることが多いと思います。
一方で、森林、農地、牧草地などの土地も、温室効果ガスの排出と吸収に深く関わっています。
森林が失われる。土地利用が変わる。農地で肥料が使われる。家畜が飼育される。森林が伐採・管理される。こうした活動には、土地に関わる温室効果ガスの排出が伴います。
また、土地には排出だけでなく、炭素を吸収・貯留する働きもあります。森林の管理や自然生態系の回復、アグロフォレストリー、土壌への炭素貯留などがその例です。
SBTiのFLAG(Forest, Land and Agriculture)は、このような森林・土地・農業に関わる排出と除去を、科学的な気候目標の中で扱うための枠組みです。SBTiでは、土地集約的な企業について、土地由来の排出削減と炭素除去を含めた目標設定を行うための方法を示しています。
SBTi|Forest, Land and Agriculture(FLAG)
SBTiそのものについては、前回の記事で、科学に基づく削減目標の考え方やScope 1・2・3、ネット・ゼロ、建物との関係について整理しています。
中山諒二造園設計|SBTiとは? ― 科学に基づく気候目標を、実際の場所へ
現在のFLAG GuidanceはVersion 1.2です。2026年3月19日から、新規の目標提出や目標更新に適用されています。今回の改訂では、特にNo-Deforestation Commitment(森林減少ゼロに関するコミットメント)の要件が見直されました。
FLAGが扱うもの
FLAGを理解するうえで重要なのは、土地を単純に「CO₂を吸収する場所」として見ないことです。
SBTiでは、森林減少や土地転換、農業生産に伴う排出、肥料や家畜に関係する排出、森林管理など、森林・土地・農業に関係する活動から生じる排出をFLAGの対象として扱います。一方で、森林や農地、牧草地などにおける炭素の除去・貯留も扱います。
つまり、土地には排出を生む側面と、炭素を吸収・貯留する側面の両方があります。
FLAGは、この両方を気候目標の中で扱おうとするものです。
森林を伐採して別の用途に転換することで生じる排出と、森林や土壌に炭素が蓄積されることは、どちらも土地利用の結果として起きています。
そのため、FLAGでは「土地からどれだけCO₂が出ているか」だけを見るのではなく、その土地でどのような活動が行われ、排出と除去がどのように生じているのかを見る必要があります。
「木を植えればいい」という話ではない
ここはFLAGを理解するうえで、特に重要です。
木を植えればCO₂を吸収するから、それで別の排出を相殺できる、という単純な仕組みではありません。
まず、土地利用によって生じている排出を把握し、削減することが基本です。
FLAGでは、土地に関係する排出削減と除去を目標の中で扱いますが、FLAGによる除去を、エネルギーや産業活動に由来する排出削減の代わりに使うことはできません。SBTiでは、FLAG目標と非FLAGの目標を分けて扱い、それぞれについて排出削減を進めることを求めています。
つまり、森林を増やしたから工場や事業所からの排出をそのまま残してよい、という考え方ではありません。
土地に関わる排出は削減する。そのうえで、森林や土壌などが持つ炭素吸収・貯留の機能を維持・強化していく。
FLAGは、その両方を扱うための枠組みです。
現在のFLAGと、これからのFLAG
FLAGについては、現在のルールと今後の改訂を分けて見る必要があります。
現時点で適用されているのはFLAG Guidance Version 1.2です。
2026年3月の改訂では、FLAG目標の設定対象となる企業に関する期限の見直しに加え、No-Deforestation Commitmentの目標年、対象となるコモディティ、必要な公開資料、森林減少のカットオフ日に関する要件などが改訂されました。
つまり、現在FLAGに取り組む企業は、排出量だけでなく、サプライチェーンにおける森林減少の扱いについても、現行の要件を確認する必要があります。
一方、SBTiは現在、次のFLAG Standard Version 2に向けた改訂プロセスを進めています。
SBTiは、実際の事業やサプライチェーンの状況を踏まえながら、Version 2を検討しています。2026年のCall for Evidenceは10月8日まで受け付けられています。
したがって、現在FLAGについて考える場合は、現行の基準はVersion 1.2、次のVersion 2は現在開発中という整理が適切です。
どのような企業がFLAGの対象になるのか
FLAGは、すべての企業に一律に適用されるものではありません。
SBTiでは、林業・木材・紙、農業生産、動物由来食品、食品・飲料加工、食品・生活必需品小売、たばこなど、土地集約的なセクターについてFLAG目標の設定を求めています。
また、それ以外のセクターでも、FLAG関連排出がScope 1、2、3全体の20%以上を占める場合には、FLAG目標の設定が必要です。
つまり、企業の業種だけで判断するのではなく、その事業がどのように土地とつながっているのかを見ることが重要になります。
どのような原材料を使っているのか。どこから調達しているのか。その原材料はどのような土地で生産・採取されているのか。
そうした関係をたどることで、企業活動の背後にある土地が見えてきます。
これは、SBTiのScope 3を考えるときにも共通する視点です。企業の排出は、企業の敷地の中だけで完結しているわけではありません。
TNFDとの違い
ここで、TNFDとの関係が見えてきます。
TNFDは、自然への依存、影響、リスク、機会を把握し、それを経営や開示につなげるための枠組みです。
一方、FLAGは、森林・土地・農業に関係する排出と除去を気候目標の中で扱うための枠組みです。
大きく整理すれば、
TNFDは、自然との関係を捉える。
FLAGは、土地に関わる排出と除去を、気候目標の中で捉える。
という違いがあります。
TNFDについては、以前の記事で詳しく整理しています。
中山諒二造園設計|TNFDとは? ― 私たちと自然との関係を考える
また、TNFDのLEAPアプローチでは、自然との接点をLocateし、その場所での依存や影響、リスクや機会を評価していきます。
FLAGでは、その土地に関係する排出や除去を気候目標の中で扱う。
目的は違いますが、どちらも企業活動の向こう側にある土地を見ることで、より具体的になります。
ただし、土地の上では分けられない
制度としては別々でも、実際の土地では、気候と自然は分かれていません。
森林を別の用途に転換すれば、炭素だけでなく、生息環境や水循環、土壌にも影響が及びます。
反対に、自然生態系を回復させれば、炭素の吸収だけでなく、生物多様性や水、土壌にも変化が生じます。
一つの土地の上で、炭素、水、土壌、生物多様性、土地利用が互いに関係しています。
その意味では、「これは気候の問題」「これは生物多様性の問題」と完全に切り分けて土地を見ることには限界があります。
土地は、数字だけでは分からない
FLAGでは、排出量や除去量を算定する必要があります。
それは重要です。
しかし、数字だけでは、その数字が生まれている場所の状態までは分かりません。
例えば、同じ「森林」でも、その土地がどのような森林なのか、どのように管理されているのかによって、自然環境としての意味は変わります。
農地でも同じです。土壌の状態、水の動き、植生、周囲の生態系とのつながりによって、その土地の性質は大きく異なります。
だからこそ、排出や除去の数字を見るだけでなく、その数字が生まれている土地を見ることが重要になります。
この考え方は、以前の記事で扱ったTNFDの「場所」という視点ともつながっています。
中山諒二造園設計|自然には、敷地境界がない ― TNFDから考える、サプライチェーンと「場所」のつながり
自然との関係を考えるとき、目の前の敷地だけを見るのではなく、その土地がどこにつながっているのかを見る。
FLAGでも同じように、排出や除去がどの土地で、どのような活動によって生じているのかを見る必要があります。
土地の外側を見る
土地との関係は、所有地や管理地だけで終わりません。
木材は森林から来ます。石は採石場から来ます。農産物は農地で生産されます。
造園で扱う材料も同じです。
目の前にある木や石を「製品」として見るだけでなく、その向こうにある土地を見る。
どこで採取されたのか。どのような土地利用の中で生まれたのか。その場所で自然にどのような影響が生じているのか。
こうした視点については、以前の記事で、サプライチェーンと土地のつながりから詳しく考えています。
土地を見る範囲は、敷地の境界で終わるものではありません。
実際の土地で何をするのか
では、土地との関係を把握した後、実際に何をするのか。
森林を守る。土地転換を避ける。土壌を改善する。既存の植生を活かす。自然生態系を再生する。森林や農地の管理方法を見直す。
どこまで、何を行うべきなのかは、土地によって違います。
重要なのは、「環境に良さそうなこと」を一律に当てはめることではありません。
その場所で何が起きているのかを確認し、その土地にとって何が必要なのかを考えることです。
同じ森林でも、地形、土壌、水分、光、樹種構成、過去の土地利用によって状態は異なります。
土地を扱うのであれば、まずその違いを見る必要があります。
ランドスケープとの接点
ここで、ランドスケープの仕事が関わってきます。
TNFDで自然との関係を把握し、FLAGで土地に関わる排出や除去を整理しても、それだけでは土地の状態は変わりません。
最終的には、その場所で何を残し、何を変え、どのように管理するのかを決める必要があります。
どの樹木を残すのか。どこを植栽するのか。土壌をどう改善するのか。雨水をどう扱うのか。既存の自然をどこまで活かすのか。どのような管理を続けるのか。
こうした判断には、実際の場所を見ることが必要です。
このサイトでは、TNFDで把握した自然関連課題をランドスケープへつなげる考え方について、SITESとの関係からも整理しています。
中山諒二造園設計|TNFDとSITESから考える「自然と共生する場所」
SITESについては、計画、設計、施工、維持管理というランドスケープの各段階から、土地の環境性能を考えることができます。
「緑を増やす」だけではない
土地の炭素や自然との関係を考えるとき、緑地の面積だけを増やせばよいわけではありません。
健全な土壌があるか。水が適切に動いているか。その場所に適した植生になっているか。生物が利用できる環境になっているか。その状態を長期的に維持できるか。
こうしたことをまとめて考える必要があります。
これは、Nature-based Solutionsの考え方ともつながります。
中山諒二造園設計|Nature-based Solutions(NbS)とは? ― 自然の力を活かす、これからのランドスケープ
自然を単に「取り入れる」のではなく、その土地の自然の仕組みを理解し、それを活かしながら、自然と人間の双方にとってよりよい状態をつくる。
そのためには、やはり土地を見る必要があります。
土地を見ることから始める
SBTi FLAGを調べていくと、最後に「土地」という言葉に戻ってきます。
TNFDも土地を見る。
FLAGも土地を見る。
SITESも土地を見る。
もちろん、目的も方法も同じではありません。
TNFDは、その土地と自然との依存や影響、そこから生じるリスクや機会を見る。
FLAGは、その土地に関わる排出と炭素除去を、気候目標の中で見る。
SITESは、その土地の条件を踏まえて、計画、設計、施工、維持管理を考える。
そして、実際の場所では、それらを完全に切り離すことはできません。
気候変動も、生物多様性も、水も、土壌も、土地利用も、一つの場所の中でつながっています。
だからこそ、土地を見るときには、一つの数字や一つの指標だけで判断しないことが重要です。
排出量や除去量を把握する。
自然への依存や影響を把握する。
そのうえで、その数字が生まれている土地を見る。
地形、土壌、水、植生、周囲の自然環境、そしてその土地がこれまでどのように使われてきたのかまで含めて考える。
気候変動対策も、自然再生も、最後には土地の上で行われます。
だからこそ、土地をどう使い、どう管理し、どう再生していくのかを考えることが重要です。
SBTi FLAGは、その土地を気候変動の側から捉えるための重要な枠組みの一つです。
そしてTNFDやSITESと組み合わせて考えることで、数字や開示だけで終わらず、実際の土地をどうしていくのかというところまで視野を広げることができます。
私は、そこにランドスケープの役割があると考えています。
参考リンク
SBTi|Forest, Land and Agriculture(FLAG)
SBTi|FLAG Guidance Version 1.2の更新
SBTi|FLAG Standard Version 2 改訂プロセス
中山諒二造園設計|SBTiとは? ― 科学に基づく気候目標を、実際の場所へ
中山諒二造園設計|TNFDとは? ― 私たちと自然との関係を考える
中山諒二造園設計|TNFDとSITESから考える「自然と共生する場所」
中山諒二造園設計|Nature-based Solutions(NbS)とは? ― 自然の力を活かす、これからのランドスケープ

