親方を訪ねて / コナラの庭

先日久しぶりに金綱造園事務所でお庭を管理する葉山の茅山荘へお伺いしたこともあり、ご挨拶も兼ねて金綱親方のご自宅を訪問してきました。突然の連絡、この状況の中2つ返事で受け入れてくれた親方、ありがとうございます。ちなみにこのような自粛ムードの状況下でも植物は育ちますので、きちんと管理していくことが大切で、我々庭師は日々働いております。

親方のお宅は東京の西方、日の出町のさらに山の方にありますので、私のいる江戸川区小岩からは山道を通っていくことになります。道中、山に自生する木々に絡みつく藤の開花を発見し、季節を感じます。管理された藤も美しいですが、このように自然の中で逞しく生きようとする姿に心を動かされます。

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さらに道を進めると、道沿いにシャガの群生が見られます。こちらは植林された針葉樹林帯のようですので、ここを通る人を楽しませるための補植かもしれませんが、鬱蒼とした林の中に白い花が光をもたらしてくれるようです。DSCF2434 - 親方を訪ねて / コナラの庭

2時間ほど下道を進むと、親方の住む日の出町にたどり着きます。ここは私が庭造りの原点を学んだところであり、また同じ道を進む同士との出会いの場でもあった訳です。金綱親方の家に着くと昔と変わらぬ様相の女将さんが出迎えてくれました。門を潜り応接間へと向かいます。茶庭師である親方の作る空間は常に侘び寂びが感じられます。

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女将さんの注いでくれた変わらぬ美味しさのお茶を飲みながら、山の話に花を咲かせます。金綱親方とは、私がまだ修行中だった頃、冬の北アルプスの燕岳へご一緒させて頂き、山について語り合ったことが懐かしく思い出されます。親方は庭造りだけではなく写真も撮られ、燕岳から少し離れた大天井岳にある大天井ヒュッテには親方の写真が飾られています。次回の山行は、時世もあり、まだ先になりそうですが是非また一緒に行きたいものです。

夕日が差し込む中、応接間前にある親方の庭を眺めます。シダが大分増えましたが、木々のしなやかさ、青々した苔は以前のままです。雑木類、特にコナラは成長が早く、管理しないでいるとみるみる大きくなっていき、いずれは庭そのものを作庭者の意図とは異なる姿に変えてしまいます。雑木の庭でよく知られる飯田十基が関わったとされる等々力渓谷の日本庭園なども、大きく育ちすぎた雑木類や低木が建物を覆い、もはや風情は感じられません。一度育ちすぎると二度とは元に戻らない、そこに雑木を管理する難しさがあります。もちろん、大きな敷地でのびのびと育てる場合や、小さな植え込みスペースで木々があまり根を張れず育たない場合は例外ですが、個人のお宅に合わせて、木々の幹の太さや大きさを制限していくにはしっかりとした管理が必要になります。

DSCF2439 - 親方を訪ねて / コナラの庭上を見上げると木漏れ日が差し込んで、コナラの葉が美しく照らされています。お庭の空間自体は決して広くはありませんが、まるで森の中にいるかのような景色になっています。下枝を取り払い、木の成長を上に向けていくことで、木漏れ日を感じられる空間を作りながら、庭の空間を空ける事が出来るのも雑木の庭の利点です。DSCF2444 - 親方を訪ねて / コナラの庭

このお庭は作られてから30年の歳月が過ぎている、と以前親方が教えてくれました。この木々は30年間ここにいて、しかし、この姿を保っていることになります。庭師というのは、庭が作れる、と言うだけでは駄目でその後の管理をきちんとおこなえなくてはいけないということを改めて感じさせられます。今では、深く考えることなく剪定できていますが、まだ駆け出しだった頃、一本の枝を切るのに何時間も迷った経験が思い出されました。

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お土産に親方の写真の載っている山の写真集、亀の置物を頂き、家路に着きます。

実りの多い日となりました。私もお客様のお庭に癒やしの空間をお届け出来るようさらに頑張っていかなくてはと感じさせられます。

今後とも宜しくお願いいたします。